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「お前、一つ間違ってるぞ」
えっ? とゼータは首を傾げた。ファイは強い意志と威厳を持って続けた。
「いつかじゃない。もうすぐだ。もうすぐ俺達の夢は叶う。旅に出られるんだ!」
まだあどけなさが残る童顔で、しかし何にも負けない好奇心で。そんな彼にゼータも微笑んだ。
「あは、そうだね。もうすぐ、だね。でも・・・・・・」
しかし瞳には悲哀の色が映っていた。よく見れば翡翠色の瞳は小刻みに揺れていた。
「もしかして怖い、の・・・・・・?」
恐る恐る尋ねるファイにゼータは弱々しく微笑む。
「うん、ちょっとね。今更って話だけど。そりゃ、旅に出れるのは嬉しいよ。でも今まで過ごしてきた街を離れるっていうのは寂しいし、不安。外の世界には危険なこととか沢山待ち構えていると思うから。僕達はまだ外の世界をよく知らないから。だから」
目を伏せる。
「夢が叶って外に出て、そして満足に旅することが出来るのかなっ、て。大丈夫かなっ、て」
賢い彼は悩んでいた。三年前は旅に出るという大きな夢を抱えてその日を夢見ていたけれど、一年、また一年が経つにつれて知識も増えてきた彼は考えることが多くなった。期待と共に爆ぜる不安は募り、いつしか夢を覆っていったりもした。 実際口にしてみると自分の弱さがよく分かった。自分はこんなにも震えているのだと、放った言葉を通して感じた。
ぐっと唇を噛み締めて俯くゼータの背中をファイは。
バシーン!
思い切り叩いた。
「あ、危ない。いきなり何するんだよ。落っこちそうだったでしょ」
ずり落ちそうになって慌てて幹を掴み、なんとか耐えた。落ちて怪我でもしたらファイのせい、というのは一目瞭然だ。しかし叩いた当の本人は満更でもなさそうに自信ありげな表情を口元にたたえていた。
「今のでちょっとは不安消えた?」
「はあ? 何言ってんのさ。そりゃまあ、消えたけど」
そこでゼータははっと気付く。
「もしかして僕のために?」
眼鏡の奥で目を丸くしながら問う彼にファイは着飾ることなく答える。
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