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 聖魔術はこの世界、ラムダ・デルーシアの中でも神に仕える者にしか使えないとされている特別な魔術だ。そして扱うには相当な訓練が必要となる。難しい魔術なのだ。その分一つ一つの魔術の威力は絶大で、世界的にも尊敬されている。  どの街にも聖教会というものがある。金の十字架を天辺に掲げた比較的大きな建物が聖教会の建物であり、純潔の意味も込めて白く塗られている。また、そこに所属する者達の衣装も白かった。  少女は聖教会で働くシスターだ。  また風が吹いて、少女の修道着の裾がはためいた。本来は真っ白のはずのそれは薄く汚れがかかってしまっていた。少女がお転婆なせいである。  刹那ふわっと潮の香りが少女の鼻を擽って、次の瞬間には消え去る。レ・ディールのこの匂いが少女は大好きだった。しかし今回ばかりはいい顔をしない。 「例えどんなにここが良い場所でも、お祭りには負けるの! だってお祭りは年に一度の大イベントなのよ! せっかくこの日はシスターも外を自由に出歩けるのにっ!!」  シスターは掟として、自由に外を歩いてはいけなかった。どうしても外に出たいのなら聖教会の本部に申請しなければならない。あるいは街で聖魔術の力を持ってしか解決できない事件が起こった時にのみ必然的に外に出ることになる。しかしレ・ディールの恒例行事、潮祭りだけは参加して良いことになっている。海の神が大きく関わった祭りのためだろう。  そのため先程から少女は憤慨しているのだ。 「ああ、やになっちゃう。謹慎とか本当意味不明」  一人愚痴を零しながら空を仰いだ。永久無限に広がる蒼穹が少女の目に飛び込んでくる。  空はこんなにも広いのに。何故わたしはこんな狭い所に閉じこもっているのだ。蝶のように羽ばたきたい、と少女は思った。  そして少女の場合、感情はすぐに外に表れる。  ぐっと首から下げた金のロザリオを握りしめた。強く強く握りしめるとロザリオの角が手に食い込み、手袋越しに突き刺さった。じわりと白い手袋に赤い血が広がる。どくん、どくんと鼓動が大きく感じられるようになった。その手で杖を握る。杖に思い切り力を込める。  少女は高らかに唱えた。 「ティーヤ・レ・」  禁忌と呼ばれる緊急時の脱出用魔術、 「カタストロフィ!!」  破壊の言の葉を。
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