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一.未来(1)
「明日なんて迷信、信じてるの?」
少女のように幼い声。黒と白のストライプのスカートからのぞくニーソックス。二つに編んだ黒い髪はそこだけ空間を切り取ってあるかのようだ。女の子は、にやりと笑っている。
「誰?」
私は聞こうとして、言葉が音にならないことに気付いた。
次の瞬間、身体がふわりと浮く。周りにはたくさんの気泡。ここは、水の中?息ができない。私は手を伸ばした。あの先にはきっととても大事なものがある。伸ばした手は水中を虚しくかいて、前に進むこともできない。私の少し茶色の髪の毛がふわふわと水中を漂う。どうしても伝えなければならない。今。ここで。空気がこぽこぽとこぼれる口からやっと言葉を送り出した。
「だ、い、じょうぶ、だ、よ」
笑わなきゃ。頑張って口角を上げる。大丈夫、私は今、笑ってる。ごぼごぼという水の音。どうして?涙が止まらないよ。
自分が泣いていることにびっくりして目が覚めた。今のは夢だったのか。何かとても大事なことを言おうとした気がする。学校のプールで何往復しても1000mに届かないまま泳ぎ続けているようなそんな息苦しさ。その先にはたしかに、温かくて愛しい何かがあった。
涙を拭い、目を開けるといつものカフェだった。オレンジ色の壁に濃い茶色を基調にした椅子とテーブル。サラリーマンが電話を片手にパソコンとにらめっこをしている。外が見える窓際のカウンター席では学校帰りの高校生たちがスマホの画面をしきりに気にしながら、友だちの話に相づちをうっている。
「未来、大丈夫?また昨日徹夜?」
恵麻が心配そうに私を覗き込む。
「いや、ちょっと変な夢見てただけ。たぶん」
「うん、なんか泣いてたよ?」
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