1.はじまり

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 恵麻は立ち上がり、制服のスカートに落ちたクロワッサンのくずを払っている。恵麻は私の少ない理解者の一人だ。学校にはたくさんの女の子たちがいる。同じ制服を着て同じ空間にいて、同じ行動をしている。まるで工場みたいだ。みんな、私に何かをしてくるわけではないし、私も普通に話す。でも、それだけ。私は彼女たちに興味がないし、彼女たちもそうだろう。「みんな」というかたまり。私もその「みんな」というかたまりの中の一部だ。「みんな」は、入学時の膝丈のスカートをそれぞれ自分の脚が一番綺麗に見える長さに調節しなければならない。学校指定のかばんに友だちと同じキャラクターをつけることによりどこのコロニーに所属しているのかを示さなければならない。「みんな」のルールは絶対だ。私を「みんな」の中から見つけてくれたのが恵麻。そして、今、髪にクロワッサンのくずをつけたまま、もぐもぐしているのが恵麻。 「恵麻、ちょっとごめん」  私は茶色の大きな瞳をぱちぱちしている恵麻の右耳に沿ってカーブした、少し天然パーマのかかったボブの髪の毛に触れる。クロワッサンののくずが床に落ちる。恵麻はてへっと笑う。  カフェの入口のドアが勢い良く開いて、華子がスマホを片手に入ってきた。眉間にしわを寄せ、こぶたのキーホルダーがついたかばんを漁っている。私と恵麻と華子で、こぶたの三兄弟、ブー・フー・ウーのキーホルダーを買った。おそろい。私のかばんについているのが、ブー。恵麻のかばんについているのがフー。そして、今華子のかばんでぶらぶらと揺れているのがウー。 「あー!もう!今、手元に書類あるから見るわ」 何かの書類を探しているらしいが、カフェのカウンターの高くなった椅子に置いたかばんは言う事を聞かず、なかなか書類を取り出せないようだ。華子がイライラしてかばんを探る度に、華子の短いスカートは左右に揺れる。 「探そうか?」 私は、華子のかばんを開け、ファイルを取り出す。 「あー、ありがと」 華子はスマホを耳と肩の間に挟み、カウンターに置いたファイルからA4の紙を取り出した。 「だからさ、生徒総会のプログラムに、鈴木の名前入ってないじゃんって」 生徒会長の華子はいつも忙しい。今日だって久しぶりに3人でお茶しようってここに来たのに、到着するやいなや生徒会メンバーからLINEが来て、この調子だ。 「もう!今行く!」
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