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真実ちゃんは誰でも知ってるような有名な女児向けのアニメの原画を描いている。真実ちゃんの仕事は本当にすごいと思う。やっぱり、どんなに描いても辿り着けないのだろうか。「才能」がないのだろうか。
「未来は、ほんとにいつでもどこでも寝れるよね。今日の数学の時間だってさ」
「あー、あれって、私、殴られたの?熟睡してたから気付かなくて、なんか衝撃あったけど、眠かったからそのまままた寝ちゃった」
「大変だったんだよ。あの先生、怖いけど普通げんこつで殴ったりしないし。仮にも未来は女の子でしょ。未来また寝ちゃうし、そのあとクラス固まっちゃって」
「だってさ、行列っていつ使うの?数Cって意味わかんない。数学??Bまでは完璧だから大丈夫だよ」
ふと、カフェのカウンターに目をやると、見覚えがあるシルエットを見つけた。見つけて、しまった。きっとこのシルエットに限っては、どこにいても見つけてしまう。たとえ万里の長城の石垣の上からだって、凱旋門の上からだって。
「だ、大丈夫だよ」
レジのほうを見ないようにして繰り返す。コーヒーを飲もうとしてカップを持ち上げるとスプーンが皿から落ち、カフェの床に音を立てて転がる。シルエットがこちらを向いたのがわかる。
「あ、未来さん、恵麻さん」
ユーキくんは、大判の赤いマフラーをどこが首かわからなくなるくらいぐるぐる巻き、青いカーディガンを羽織っている。いわゆる「カーディガン男子」のユーキくんは、今受け取ったコーヒーを持って歩いてくる。
「今日も無駄話ですか?」
「ガールズトークです!」
恵麻がユーキくんのトレイにコーヒー以外載っていないことを確認して言う。
ユーキくんは少しかすれた声でくくく、と軽く笑い、トレイを一時的にカウンターに置いた。
「いいですね。女の子って好きですよ」
私はユーキくんの言葉に含まれた「好き」の二文字に卒倒しそうになったが、極めて平静を装った。
「その発言、誤解を呼びますよ」
ユーキくんは、コーヒーに砂糖だけをざざざっと入れ、スプーンでよくかき混ぜながら言った。
「女の子になれるものならなってみたい」
「いや、だからその発言は」
「冗談ですよ」
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