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泣き叫ぶ恵麻の声で目を開ける。涙で流れてぼろぼろになった恵麻のマスカラ。ウォータープルーフって言っても結局流れちゃうんだよね、泣いちゃうとさ。よくマスカラが流れる私にはよくわかる。
「ねえってば!大丈夫?」
恵麻がおおげさに私を揺さぶる。
「大丈夫だよ、どうしたの、私」
「車にぶつかったんじゃん!もう!怪我してない?今救急車呼んだからね!」
あたりを見渡すと、会社帰りのサラリーマンや買い物袋をさげた主婦がひそひそとこちらを見て話している。ボンネットがへこんだ車が見える。運転手と思われるおじさんが慌ててどこかに電話している。道の端に目をやると、茶色い塊が映った。あれは、犬?
「ねえ、あの茶色いのは、、、」
恵麻に聞こうとしたが、救急車のけたたましいサイレン音で私の声はかき消された。
「こちらのお嬢さんですか?大丈夫?聞こえる?お名前言えるかな?学校はどこ?通ってる病院とかある?ちょっとお財布見せてもらうね」
救急隊の人が私を担架に載せ、救急車に運び込みながら次々と質問してくる。
「はい、有明未来です。学校はミナト第二高校です。通っている病院は特にありません」
「意識あり。外傷も見られない」
救急隊の人は私の財布を見ているようだ。
「通いの病院もないな。水原病院に連絡して」
「あ、ダメです。いっぱいです」
「そうか、じゃ、次、広海大学病院はどうだ」
車が揺れるのを背中で感じながら、今どのあたりを走っているんだろう、と思う。救急車って中から外は見えないんだな。薄くて白いカーテンの向こうにぼんやりと街のシルエットが見える。救急隊の人のやりとりを聞きながら私はだんだんと意識が遠のいていくのを感じた。昨日、ちゃんと寝ておけばよかった。やっぱり睡眠不足は美容に良くない。
「ねえ、命のろうそくって知ってる?」
声が聞こえる。
「あ、リカだけど。命のろうそく」
黙っていると声は続ける。
「人間の命はね、ろうそくの火なんだよ。火が消えたり、もしくはろうそくが燃え尽きちゃうと死んじゃうの」
そういえば、そんな話、小さい頃に日本の昔話を題材にしたアニメで見たことあるかも。たしか、奥さんが病気になって医者にももうどうにもならない、って言われただんなさんが、黄泉の国にある奥さんのろうそくを他の人のろうそくと換えようとして。あれは、結局どうなったんだっけ。
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