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「そう。それ。ほんとにあるの。そのろうそく。で、未来ちゃんのは、もうろうそくがポッキリ折れちゃったのね」
「うそ。私、生きてるじゃん」
私はたしかに恵麻に揺り起こされた。眠かったから少し寝てるだけ。
「うん、なんかね、犬がさ。犬、死んでたでしょ、キミの横で」
あ、あの茶色の塊は犬だったの?死んでたの?
「そう。あの犬がさ、なんかよく知らないんだけど、自分の分のろうそくを未来ちゃんに譲るってきかないわけ」
犬が?
「でさ、ほんとはこんなのありえないんだけど、未来ちゃんのろうそく、犬のろうそくとそっくり入れ替わったのね」
「ねえ、何の話?」
私は少しいらいらしてきた。なんでこんな意味のわからない話を聞かされなきゃいけないのだろう。とにかく話を合わせておいてさっさと帰ろう。
「その話の流れでいくと、私のろうそくは」
「そうなんだ。回復」
「じゃあ、やっぱり生きられるんじゃん、私」
「そ・れ・がー。犬のろうそくって人間のろうそくと種類違うわけ」
「ろうそくの種類が違うと何か問題があるの?」
私は目の前のニーハイ女子が何を言っているのか、一応わかろうとしてみる。
「人間より犬のほうが老化のスピードが早い」
リカはつまらなそうに爪を見て、続けた。
「犬ってさ、生まれてから一年目でだいたい人間の十七歳にあたるわけよ。一年半目で二十歳。二年目で二十四歳。三年目で二十八歳。あの犬、あの日が生まれて一年目だったらしいのね。つまり、あと半年後には人間の歳で二十歳になる予定だったってわけ。それなのにあの事故。あの犬のろうそくをそのまま未来ちゃんが引き継いだんだから、キミはあと半年後には何歳になっているでしょう?」
「まさか、二十歳、なの?」
私はおそるおそる聞いた。これが本当の話なわけないけど、もしかしたら。
「正解!成人おめでとう!」
リカは嬉しそうに両手を差し出した。差し出した両手の指を折りながら数える。
「あと一年後には二十四歳。通常なら大学卒業しちゃってるね。あと二年後には二十八歳。アラサーか。二年後には、今同じ歳の子たちのほぼ十歳歳上になるわけだ」
「そんな!だっておかしいでしょ。高校は?」
「みんなの未来ちゃんに関する記憶はつどつど書き換えられる。パソコンでお話を書くように」
作り話にしては、細かすぎる。
「恵麻や華子の記憶をいじるっていうの?」
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