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乗りこんで来たのは初老の女性でした。いえ、と小さく答えてそのまま一階へ下りて行きます。後から来た女性は私とは反対側の壁にもたれかかり、うつむいています。小柄でごく普通の人に見えました。
こんな時刻に変だな、とは思いましたが自分は朝帰りだし、朝早い仕事の人もいるだろうくらいにしか考えていませんでした。
そして一階に着くと、その女性は降りる前に階数ボタンを押したようでした。何気なく振り返ると、ドアの閉まったエレベーターはまた屋上まで戻っていきます。
「上で待ってるだろうから、すぐに乗れるようにしといてやらないとね」
「え?」
私に話しかけたのかどうか定かではありませんが、確かに女性はそう言いました。にっ、と笑ったようにも見えました。
どういうことなのか判らずその場に立ち尽くし、はっと我に返ると、もうその女性の姿はありません。エレベーターホールを出た道路を左右に見ても、誰もいません。
上で待ってるってどういうことだろう……最初に見た人影と関係あるのかな。
そう考えると急に背筋が寒くなってきました。
うっすらと明るくなってきましたが、同時に雪もちらちらと舞い始めます。誰もいない街に立っているのが怖くなって、私は急いで歩き始めました。
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