『罪と蜜』

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 ーーはっとして辺りを見渡す。  誰かに呼ばれた気がして、今まで意識を失っていなかった筈なのに何故か夢を見ていたように曖昧だ。  ……ここはどうやら、自分の家の近くにある線路沿いのようだ。  疲れているのか。頭(かぶり)を振ると、電車が激しい金切り声をあげて横を通り過ぎた。  何かを。忘れてはいけない大切な何かを思い出しかけたのだが、その音に邪魔されて掴みかけたモノは霧散してしまう。  もう、帰ろう。  そうして歩き出すとアパートの階段をゆるゆると上り、ドアの鍵を開け万年床となっている布団に身を預けた。  深い深い海の底に誘われるかのように、意識が沈んでいくのが分かる。  明日は会社だな。嫌だ。何か事故が起きて、休みになれば良いのに……。  最後に在ったのは、そんな気持ちだけであった。
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