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シャーペンの芯がボキッと折れて、西が慌ててノックする。
「べ、別に…!大した理由はねーよ」
その慌て方が何だか怪しい。
オレはニヤりと口を緩めて、レオの参考書の上に手を置いた。
「見えない…!」
「見なくていい。西、お前。もしかして何か理由があるな?ん?」
ニヤニヤと西を見る。
西は少し慌てた顔になったが、それでも参考書から目を逸らさなかった。
「何も理由なんてねーよ!思ってたよりも悪かったから、復習してるだけ!」
「うそだ!オレはお前の点数だって盗み見してたんだ!お前はそこまで悪くなかったはずなのに…、あっ!もしかしてお前、葵に負け……んごっ…!?」
そこまで言いかけると、西は立ち上がってオレの口を塞いだ。
大きな背が目の前に立ちはだかり、その長い手は簡単に真正面に座っていたオレを捕まえる。
「何、馬鹿なこと言ってんだよ!」
その顔は焦っている。
そんな西にますますニヤつく、オレ。
西の手のひらを押しのけて、オレは口元に両手を添えて、こっそりと口にした。
「照れるでないぞ、正直に話したまえ」
「マジで蹴りあげるぞ、槇小路」
「ぷくくく…!西ってお前、可愛いな」
「マジで張り倒す…」
目元を据えて話す西に、オレは笑いが止まらない。
「悪いけどマジで!アイツが関係してるとかじゃねーから!アイツが何点かさえも知らないし!」
そう言うと、西は参考書を取り上げて、席を立ってしまった。
「あっ…!」と手を伸ばしたところでもう遠い。
怒った背中が、図書室から出て行った。
「………、」
ちょっと悪ふざけが過ぎたかな。
からかう気持ちは、そりゃ…。
確かに少しはあったけど、二人がどうにかなるのなら、それを応援しようと思ってるのに。
葵があんな風に男と接するとこ、会長以外には初めてだったから。
調子に乗りすぎた自分を反省し、小さく頭を掻いた。
それからは、自分が持ってきた教科書を見つめながら、復習することになった。
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