二輪

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「あぁ、仲間の仇取らせてもらうっちゃ。 ほんなら死んでもらうけん、行き。」 月夜に照らされたその人は綺麗なほど妖しく存在していて、独特な喋り方のその人はその場から動くこともせずに、不敵に笑っていた。 「その喋り方、長州かッ!」 抜刀した三人は同時に走り出してしまって、何故か置いてかれた気がして私はその場に立ち尽くしていた。 相手が10人、土方さんたちは3人、分が悪すぎる。 戦闘が始まってしまえば、見慣れない血も聞き慣れないつんざく様な悲鳴も脳に鮮明に刻まれていく。 片腕を落とされた人をこの目でしっかりと見た時、私は限界だったのかその場に崩れるように尻をついた。 それなのに、私は目の前の殺し合いから目を離せなかった。 「女?」 怒声や、刀が交じり合う音、耳を塞いでしまいたくなるほどのその場で静かに聞こえた声。 ゆっくりとその人の方を見れば確かに視線があった。 お互いに反らすこともせず、見つめ合っていればその人は無表情から一転、また不敵に笑った。 ゆらりゆらりと近付いてくるその人が怖くて恐くて、私は声を出すことも目を背けることも出来ずに、じっと見つめていた。 (やだ・・やだ・・・コワイ・・・) その人はとうとう私の目の前まで来て、必然的に見上げる形になっていた。 「何故、泣いちょる?」 そう問われて初めて自分が泣いてることに気付いた。 手を伸ばしてくるその人が怖くてぎゅっと目を瞑った。 訪れると思っていた痛みも、恐怖も、その人の優しい手つきによって一瞬で吹き飛んだ。 目を開けば困ったように笑むその人の顔が見えた。 優しく涙を拭ってくれる。 クリアすぎる視界に、目と目が合うその姿勢に、私は醜いこの顔を晒してるんだと瞬時に理解し、顔を背けた。 「お?」 間抜けな声が頭上から聞こえた。 「ッチ。一、女を守れっ!!」 「御意」 下を俯いたままの私の耳に届いたのは騒がしいこの場に盛大に響いた舌打ち。 「岡田」 砂利を蹴るような音が複数聞こえたかと思えば、斎藤さんの苦しむ声が聞こえた。 「逃げろ、走れッ!!」 小さく腹の底からでたようなその言葉に私は顔を上げた。 私の視界に映ったのは、さっきまではいなかったはずの黒い服に身を包んだ男と刀を交える斎藤さんの姿だった。
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