二輪

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「一言一句逃さずに聞いてください。」 ぎょっとした顔をする山崎さんをしり目に私は話した。 「私の名前は桜 華(サクラ ハナ)。 あなたたちのことも、あなたたちの敵のことも多少なりは知っていますよ。 さっき襲ってきた人たちは長州の高杉 晋作さんでしょう。 斎藤さんに傷を負わせたのは、岡田 以蔵さん。 芹沢 鴨はしぶとかったですか?」 そうにっこりと土方さんに笑いかけた。 「何のことだ?」 「芹沢 鴨は大雨の降る夜、梅さんと寝室にいるところ土方歳三、山南敬助、沖田総司、原田佐之助により暗殺された。 さぞ強かったでしょう。 よくないですよ、人のせいにするのは。」 言葉を繋げば繋ぐほど悔しそうに唇を噛むその切れ長の目を反らすこともせずに言ってのける。 「山崎さん、この組織にどれほどのの間者がいるか知っていますか? ここまでお話をさせてくれるなんて意外でした。 すぐに殺されると思ってましたから。 私の正体を絶対に暴いてくださいね。」 もしも、土方さんが、誰かが、私のこの存在を認めてくれるとしたら私はココで生きたいと思うんだろうな。 「お前が言いたいのはそれだけか?」 「はい。 私が今の状況で話せるのはこれくらいですよ。」 「二つ聞きたい。 生まれと年を。」 「生まれは東京。 今でいう江戸です。 今は15歳になります。」 「そうか。 お前の詮議は明日だ、山崎連れてけ。」 「御意。」 暗いどこかに連れてこられた私に黙って傷の手当てをしてくれた山崎さん。 「ありがとうございます。」 純粋にお礼を言えば、背中を向けていたままの山崎さんの声が聞こえた。 「私からも一つ聞く。」 「なんですか?」 「お前は馬鹿なのか?それとも相当頭が切れるのか?」 「さぁ?それは自分でもわかりません。」 見えるはずもないのに、バカだと言われたことにさっきの出来事を思い出して顔を熱くさせていた私。 「そうか、寝ろ。 怪しい動きをしたら殺されると思え。」 忠告をしてくれた山崎さんにお礼を言って、私は暫くぼーっとしていた。 明かりもないこの空間は、まるでちっぽけな私を飲み込んでしまうような、飲み込まれるような錯覚を起こす。
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