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「起きてたのか、来い」
沖田さんが居なくなってどれ位経ったのかは分からない。
「お前、総司に何かされたか?」
沖田さんの名前にぴくりと反射してしまう体。
後ろを着いていくだけの私は何も答えなかった。
そんな私の心情を察したのかは分からないが、土方さんはそれ以降口を開くことはなかった。
一つの部屋の前で立ち止まった土方さんと同じように私も足を止めた。
ちらりと私の顔を見た土方さんに私は笑って見せた。
「そんなちっぽけな作り笑いやめろ。」
それだけ言って、襖に手を掛けた土方さん。
私は黙って着いていった。
「座れ」
返事をすることもなく言われた場に腰を下ろせば、こほんっという咳ばらいが響いた。
「顔をあげておくれ。」
優しい野太い声に顔を上げれば、ごつい体の人が真ん中に居て
その右に土方さん、その左に眼鏡をかけた人が居た。
「昨夜はすまなかったな、眠れたかい?」
真ん中の人は優しい人なのだろう。
きっと近藤 勇だろう。
「はい。」
そう返事を落とした私に、すまなかったともう一度謝るその人に首を振った。
「私は新撰組 局長 近藤勇だ。
君の名を教えてくれないかい?」
「私の名は、桜 華です。」
「そうか、歳から少しは聞いているが何故あの場に居たんだ?」
「それは・・・」
そう問われてしまえば、私は口を閉ざすしかできない。
右後ろにいる沖田さんが気になって仕方がない。
「どうやら、華さんは記憶がないらしいですよ」
私に助け船を出す人物は1人しかいない。
「それは真か?」
オーバーリアクションをした近藤さんにそう聞かれてしまえば私は頷くしか出来なくて、でもだからと言って土方さんがこの場で私が話した内容を発言できる訳もない。
「帰る場所も分からないのかい?」
「はい。」
「そうか・・・、記憶が戻るまでここに居ればいい。
我らも協力しよう。」
近藤さんの言葉に目を見開く土方さんが見えた。
「だがな・・・、部屋が空いてなくてなぁ・・・」
「僕と一くんの部屋ではどうですか?」
「それはいいな、桜くん、どうだい?
総司も斎藤くんも私が信頼している武士だ。
女子にこんなことを言うのもなんだが、どうだい?」
「近藤さん!」
我慢できなくなったのか、声をあげたのは土方さんだった。
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