一輪

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気付けば私は1人だった。 気付けば、私はいつもこの「場所」に居た。 大好きな桜の木の下に。 心地いい春風が吹けば、桜の花が舞い散り 私の頬を撫でてくれる。 私を包み、隠してくれる。 (にゃぁ~) 気持ちいい風に身を任せていれば、いつものように私の足に寄り添ってくる黒い毛並みの猫さん。 「猫さん、また来てくれたの?」 そう言いながらその場に膝をつき喉元を撫でれば、ごろろと気持ちのよさそうな顔で鳴いてくれる。 「猫さんには、家族がいるの? 私には居ないの、家族って温かいもの?」 答えてくれるはずないのに、私はいつも猫さんに聞くんだ。 鳴く訳でもなく、目を細めたままの猫さん。 「ねぇ、猫さん。 また、明日もここで逢ってくれる?」 そんな勝手な約束をして、私は冷たい家に向かって歩き出した。 (にゃあ~) 「また、明日。」 いつものように、ちらりと窺うような猫さんにぺこりと頭を下げて。
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