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「女の間者か。
忍びの類か、おめぇは。」
そう吐き捨てるように地面を見つめていた土方さんと呼ばれた男性は、カチャリという聞き慣れない音と共に、こんな暗闇でも光りを放つソレを私の喉元に突き立てた。
こんなジョークはっきり言ってたちが悪すぎる。
この人たちは、俳優さんなのに迷い込んだ善良な市民の私を脅しているんだから。
「これは何のジョークですか?」
「じょーく?」
むっとして睨み付ければ、沖田さんが不思議そうに声を出した。
「何が楽しいのかは分かりませんが、こんなことをするなんて酷いです。
私、帰りますから。」
ただでさえ、見覚えのないこんな場所で
頭の可笑しい人達に絡まれて、私はこの何とも言い難い不安な気持ちに押しつぶされそうだった。
目の前に突き出されたソレを右手で払い一歩横にズレた。
「おいっ!」
「もうっ、しつこい男は嫌われますよ。
大事なお友達が死んだばかりなんです。
放っておいてくださいよ!」
静かすぎるそこに私の小さな悲鳴が響き渡った。
それと同時に指先に感じたのはぬるりとした感覚。
ちらりと右手に視線を落とせばぱっくりと開いてる傷口だった。
ぽたぽたと垂れつづける血を理解してしまえば、ジクジクと痛むソコに顔が強張っていくのと一緒に言い知れぬ恐怖が私を支配した。
「本物、なんですか?」
確かめたくて発したはずの言葉は自分でも驚く程、か細いものだった。
「あ?おめぇは馬鹿か?
帰すわけには行かねぇな、一緒に屯所に来てもらおうか。」
今も痛むソレに、さっきと同じように突き付けられたソレに、私は心のどこかで「あぁ、殺されるんだ」と何処かクリアな頭が納得していた事に驚く事も出来ずにただ、ただ感じていた。
三人に囲まれるように歩き出した私。
「あの」
死ぬ前に一つ知っておきたいことがあった。
「なんですか?」
人懐っこそうな笑顔をした沖田さん。
この人は、私が死ぬと分かっているのにこんなに純粋な笑顔が出来るんだと不思議な人だなと思った。
「今は、何年なんですか?」
私の質問があまりにも予想外だったのか、沖田さんはずっとニコニコしていたその目を大きく見開いた。
「はい?」
「今は何年の何月で、ここは何処なんですか?」
「今は―――・・・」
沖田さんの答えに今度は私が目を見開く番だった。
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