二輪

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「今は文久4年の3月3日ですよ?」 沖田さんの言葉を頭の中で何度も繰り返した。 (文久って・・・、江戸時代・・・!?) 「・・・・・嘘、でしょ?」 私の質問にせっかく答えてくれたのに やっと口を開けたのに、誰にも聞こえないほど小さな、小さな"絶望"だった。 「嘘とはどういう意味だ」 誰にも届くはずないその声に反応を示したのは斎藤さんで、否定の言葉を述べた私のことを知りたがっているように見えた。 タイムスリップなんて、映画や小説での夢物語だと思っていた。 誰かが作った空想。 そんな風に捉えていた。 それなのに、私は見たこともない場所にいて、刀を持った男性たちに囲まれているんだから。 同じように息を吸い、同じように歩いている。 夢、だったら 手の甲のこの痛みはなんなのだろうか。 夢、だったら 猫さんにまた逢えるのだろうか。 「猫さん・・・?」 意識が遠のいていく中 確かに聞いた。 『華ちゃん、ありがとう。』 あの言葉の意味は何だったのだろうか。 「猫?」 猫さんが私をここに連れ出してくれたのだろうか。 一人にしないでなんて言ったから、寂しくないようにここに連れてきてくれたのだろうか。 だったら、猫さんがいる天国へ行きたかったな・・・。 「――――おい。」 掴まれた左腕も、強制的に止められた足も気にならない。 そんなことよりも猫さんは私に何をさせてたいのかが気になって仕方がなかった。 「答えろ。」 ゆらゆらと揺れる視界は両肩を掴み揺さぶってくる斎藤さんのせい。 そんなことさえ、どうでもよかった。 目の前の斎藤さんの顔をぼんやりと見つめながら、考えて、考えて 「斎藤、止せ。」 「私を逃がしてくれませんか?」 そんな発言をしていた。 斎藤さん越しに見える土方さんは暫くして鼻で笑ったように見えた。 「そいつはできねぇ相談だな。 身なりも異様、自分のことも話さない。 口を開いたと思ったら、今は何年ですか、だ。 そんな可笑しな奴を、おいそれと京の町に放てるわけねぇだろうが。」 可笑しな奴と言われて、自分の姿を確認してみれば、所々泥が付いた制服で、元々色素の薄い地毛もこの時代では異様なのかもしれない。 そして何より異様なのは私の眼の色だろう。 ((虹彩異色症))と言われ、右目と左目の色が違うから・・・。
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