第1章

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どうやっても手遅れでした。小さな変化ほど、気づいたときには手遅れで、私の中にあった火種は、大きく燃え上がり炎になっていました。真っ赤な炎になっていました。殺意です。浮気するくらいなら、この手で殺してやろうという殺意です。汽車の動きが少しずつ、小さくなっていきます。どうやら、到着したようでた。私は手荷物を取ると、男に軽く会釈して立ち去りました。男は追ってきません。所詮、旅道ずれなんとやらというやつなのかもしれませんと振り返ることなく歩いて、駅を出たあたりのことでした。 妙にバックが軽い、私は不思議に思いながら、中を見てみるとそこにあったはずの包丁がなくなり、一通の手紙が入っています。私は、そっと手紙を開きました。 『貴女には、包丁など似合いませんよ。旅人より』 短い文章でした。私の中の殺意は、いまだに消えていません。ふつふつと怒りがこみ上げて、ポタポタと手紙に落ちていきます。 ポロポロと流れ落ちていき、いつまで泣いたかわかりませんが、私はピンっと姿勢を正して歩いていました。 引き返してはいません。夫に会う予定は変わりません。 「平手打ちの一発くらいは覚悟しておいてもらいましょう」 と夜の汽車が汽笛を鳴らす音を聞きながら呟きました。
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