初夏の頃

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見渡す限りの草原を抜け、太陽に照らされて黄金色に輝く海、久し振りにここを訪れたが、変わらない景色は今日も穏やかに揺れている 静寂を纏い、帳を下ろしたように何も生物の息吹を感じない砂浜に倒木を引きずり、僕は座っていた もうすぐ夏が来る…長袖の制服を隣に置くと、僕はため息を一つ零した 「あー、そこは私の特等席なのに」 澄んだ高い声が波音を追い抜き、僕は背中をビクッと震わせた クスクス。後ろから笑い声が聞こえる 振り返るとそこには風に踊る長い黒髪と、照りつける太陽にそぐわない真っ白い肌が印象的な少女が立っていた 「君は……?」 僕が聞くと、彼女は少し不機嫌そうに倒木に腰掛けた 「んー、君の近しい人物だと思ってたんだけどなぁー」 そう言われて僕はあっ、と間の抜けた声を出した しわ一つ無い同じ学校の制服、既視感を覚える均整の取れた顔 なんだか……この制服はついさっきも見た筈なのに、ずっと昔の遠い記憶のような… 深く考え込んで居ると、彼女はポケットから飴玉を出した 「舐める?」 甘い物が苦手な僕はそれを断ると、彼女はどこか寂しげな表情を見せた 「甘くないんだったら、頂こうかな」 慌てて付け足したその言葉に僕を一瞥したが、不満そうに飴玉をポケットに放り込んだ 「あげない、君がそんな可愛気の無い子だとは思ってなかった 昔は……君は………」 一陣の潮風が彼女の声をかき消した 僕は聞き返したが、屈託の無い笑みを浮かべるとなんでもない!と、先程までとは打って変わって元気な声と表情で僕に返事をした 僕は納得行かなかったが、彼女は立ち上がり大きくうねった風の方向を見つめた 物憂げで侘びしさを感じるその表情に、不覚にも僕は見蕩れてしまった 「ここってさ、不思議な場所だと思わない? こんな良い所なのにさ、誰も来なくて、静かで…昔から……寂しいと思ってたんだよね」 不意に口を開き、同意を求めるでも無く彼女は僕を見た 「……そ、そうだね」 彼女の紡ぐ言葉と声はまるで風にほどける糸のように不安定でそれでいて美しい 「やっぱり…どこかで……」 僕がそこまで言い掛けると、彼女が不意に目の前まで迫ってきた 全てを飲み込む海のような深い目 初夏の暑さの中でも雪を思わせるような白い肌 真っ黒な髪の毛は太陽を浴びて暗闇に差す光のように艶めき、僕はその美しさになぜか刹那を覚えた
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