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「覚えててくれたんだ……嬉しい…」
少しだけ微笑み、そうつぶやくと、彼女はまた倒木に腰掛けた
ご機嫌そうに足をパタパタと忙しなく動かしながら空を見上げる彼女を見て少し、昔の事を思い出した
この倒れた木がまだ海沿いに生える稀有な一本の大木だった時、僕は木に登って見る景色が好きだった
いや
木に登って女の子と見る景色が好きだった
「君は…もしかして…」
「……今日はお別れの日…私はもうすぐ朽ちてしまうの
君は最近、私と海を見てくれなかったね、少し寂しかったんだよ」
色褪せて眩しいくらいに輝く過去の中に、彼女の弾けんばかりの笑顔が写っていた
そうだった……君は……
「目を閉じて…」
僕は言われるままに目を閉じた
頬に柔らかい感触が伝わり、驚いて目を開けると、そこには初めから何も無かったかのように穏やかな海が波音を立てていた
今年も新緑が爽やかに視界を彩る
僕はあれ以来、あの場所には行っていない
彼女が居ないという事実を一度だって感じたくなかったから
もうすぐ、夏が来る
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