サバンナでも同じこと言えんの?

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 しかし、背の低いリプカが身をかがめるだけで左の拳はあっさりとリプカの頭上を通り過ぎた。人間の動きはのろすぎる。  リプカが反撃をこころみようとして見構えると、佐竹淳二の右手がリプカの首を押さえつけた。体重では相手のほうが有利だ。そのまま足を払われて、リプカはマットの上に組敷かれてしまった。  マウントポジションを取った佐竹淳二はにやりと笑みを浮かべる。観客席からは「殺せ!」と怒号があがり、佐竹淳二は振り上げた左の拳でリプカの頬を強打した。そしてもう一発。だが、二発目はリプカが首を限界まで曲げたことによってマットに叩きつけられた。  そしてリプカは咄嗟に佐竹淳二の左腕に噛みついた。意図せぬ本能による行動だった。審判席がざわつき、佐竹淳二は短い悲鳴をあげて抵抗する。だが、通常の人間の噛む力が58キログラムなのに対してリプカの噛む力は144キログラムだ。人間の腕など簡単に骨ごと噛み砕いてしまうことが可能だろう。犬歯がめり込み、血飛沫があがると観客席からは「噛みちぎれ! 噛みちぎれ!」と、一斉のコール。  だが、「汝殺すなかれだ」という泰造の言葉が脳裏をよぎり、リプカは理性を取り戻した。そこでようやく佐竹淳二の腕から口を離すと、佐竹淳二は血のしたたる左腕を押さえて悲鳴をあげながらマットの上でもんどり打った。  そこでゴングが鳴った。佐竹淳二の試合続行が不可能であると判決が出たのであろう。
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