プロローグ

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 すると突然、男の背後でかしゃんという金属の部品が外れるような音がした。何事かと思い音のした方へと振り向くと、男の表情から一気に血の気が引いた。無理も無い。いつのまにか檻の扉が開け放たれ、先ほどまで檻の中にいたはずのその生物が檻の外に出て二本の足で立ち上がり、男を睨みつけていたのだから。 「おい、どうやってそれを開けた?」男は震える手で檻の扉を指差す。  しかしそれは聞くまでも無かった。その生物は手に握っていた南京錠を男の足下に投げ捨てる。その形状はいびつに歪んでおり、力任せに引きちぎったことがわかる。 「狩倉倫一郎(かりぐらりんいちろう)……」低い男性の声だ。その生物が男の名前を口にした。  狩倉と呼ばれた男は額に脂汗を浮かべて引きつった笑みを作り、「あ、ああ。わたしの名前だ。わかるのか?」と、たずねた。 「ああ、わかるよ。きみとは随分と長い付き合いだったからね」  その生物は狩倉へと歩み寄るが友情のハグというわけではなさそうだ。その生物の目は血走り、表情は憎悪に満ち満ちている。  狩倉は身の危険を感じて咄嗟に逃げ出そうとするが、足がすくんでしまい上体をデスクにぶつけて、そのまま床に崩れてしまった。デスクの上に乱雑に積まれていた書類の山が崩れ落ちて雪崩のように彼の両肩に降り注ぐ。  狩倉は仰向けのままその生物から目を反らすことなく必死に身をよじらせて後じさる。 「おい、待て……何のつもりだ?」  恐怖に歪む狩倉の表情に、その生物の影が覆いかぶさる。そして次の瞬間、狩倉のけたたましい悲鳴とともに鮮血が一面の床を赤く染めた。
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