プロローグ

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「狩倉倫一郎、哀れな男だ。己の保身にとらわれ、わたしのような怪物を世に産み落としてしまった。だが感謝しているぞ。このわたしに、人間に復讐するまたとない機会をくれたのだから」  その生物はEG細胞のサンプルを全てアタッシュケースに詰め込むと、狩倉から白衣を奪って研究室を後にした。  永遠の昼から解き放たれた宵闇の中、生まれて初めて大地をその足で踏み締め、早川理学研究所の外観を見上げる。風が血濡れの白衣を揺らすと、夏の訪れを予感させる甘い空気の香りを堪能した。もうここだけが世界の全てではない。その生物は心踊るような感覚さえ覚えた。  仲間を作ろう。愚かな人間共を駆逐し、まだ見たこともないこの呆れるほど広大な世界を支配できるほどたくさんの仲間を。
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