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そういえば、自転車に乗っている間、あたしたちは何も会話をしなかった。
せっかく真幸くんとふたりきりでいられる、数少ない時間をもったい使い方をしてしまった。
ただでさえ学年が違って、校内では会えないのに。
「はい、今度こそ着きました」
先ほどよりも大分軽やかなブレーキ音で、自転車が止まる。
「ありがとう」
荷台からおりて、お礼を言う。
いつもなら、ここで真幸くんは手を振って帰る。
「…………?」
待っていても、何のアクションも起こさない。
じーっと、あたしを見ているだけ。
「真幸くん?……あっ?」
真幸くんが、自転車からおりる。
そこからは、早かった。
腕を伸ばされ、首の後ろをつかまれ、体ごと引き寄せられた。
「っ……!?え、え!?」
あっという間に、小さなあたしの体は真幸くんの腕のなかに。
嬉しいけど、戸惑う。
抱き締めた理由が、いつもと違うと分かったから。
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