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「こっからチューすんの、やりづらい。もっと伸ばす」
「…………」
ここからしなければいいってだけの話なのでは……?
「1年以内に伸ばさないとなー。来年は、緋芽もういないから」
耳のすぐそばでしみじみと言われたから、鼓膜にダイレクトに届く。
胸がちくりと痛む。
改めて思うと、寂しくなる。
ただでさえ学校を休みがちなあたしだから、学年が違う彼と会える時間は本当に少ない。
そっと体を離し、まるであたしの気持ちを感じ取ったように、真幸くんが明るく言う。
「俺、ちゃんとレギュラーになれるように頑張る。緋芽がここから見てるうちに、絶対」
「うん」
あたしは目を細め、口角を上げて、目を閉じた。
まぶたの裏に描かれるのは、野球のユニフォームに身を包んだ君の姿。
いつかのように、バットを振って、ホームランを打ち出している。
きっと、叶うよ。
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