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「泣く程嫌だったのか」
「違ぇよ、バカ。嫌じゃねぇから……」
瞬きをすると溢れた涙が一筋頬を伝った。
「嫌じゃねぇから……泣くんだよ」
きっと俺も、コイツが好きだったんだ。
今更、今更だ。
今更気付くなんて、遅すぎる。
「小川……」
流れる涙を拭いもしない俺に、橋本がゆっくりと顔を寄せてくる。
「好きだよ、小川。ずっと……ずっと言いたくて、言えなかった」
「うん、俺も……俺もお前が好きだ」
「ありがとう……」
口唇が触れ合うくらい顔が近付いたのに、触れた感触は無い。
ただ、この雨の中で暖かい空気がフワリと吹いただけみたいで。
触れられない、それがまた俺の胸を締め付けた。
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