第1章「アンダーグラウンド・レジスタンス」

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 電気を隷属させた王都トォンはコンサバトリーと同じだった。  都市の内側には〝快適〟がある。  身体の肉がそれを欲している。  人は快適を求める生き物だ。  肉体は精神の礎であり、精神は肉体の上に建っている。よって精神も知らずに快適を求めることになる。  それは本能だ。  気温が零下にあってTシャツ一枚で「今日は暑いでんな」とうたうのは嘘つきである。  寒さに対して衣服を欲し、温風を吐き出す暖房を求めるのは仕方のないことだ。それを否定すれば性悪説を呑み込むことになる。アメニティを求めること自体は悪いことじゃない。ただ、身体の奥底が希求するそれは種銭を切らしたジャンキーのようにしつこく、バカ殿さまの要求ように果てがない。  王都トォンの外れに住まう〝竜なし〟たちが、都民たちを激しく憎みながらも、実は仲間に入りたい、電線の檻に収監されたいと望むのはそうした本能からくるものだった。  毎夜、電線の内側に入り込んでは(特に出入りが規制されているというわけではない)悪事を働く者たちが後を絶たない。  内わけは若い者が圧倒的に多かった。アイディンティティを求める迷子たちにとって、ドラゴンキングダムにおける、表面的な侮蔑ではなく実利的な格差は青春の捌け口として格好の標的だからだ。
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