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「これは俺が入社した時の話なんだけど……比下さん、って言う指導係の人がいたんだ――、実尋は会ったことはないと思う……ここは大きな会社だし、俺とは、今は違う部署だから……、社内で会うことは、滅多にない……でも、あの人は今もあの会社にいる……」
そう、話し始めたコージの話は、正直、私の予想だにしないものだった。
コージの過去の話。それはもちろん私の知らない時間で……それは当たり前なんだけど……聞けば聞くほど信じられないような話で……でも、目の前で伏し目がちに話すコージの顔は、一言では言えないくらいに、苦渋に満ちていた。
だから、これは、現実なんだと思い知らされる。
「あの人に見つかって……、社内恋愛してるとばれたら……実尋が飛ばされるかもしれない、……そう思ったら怖くて――、実尋の気持ちに応えるのは間違ってる……、そう思ったんだ……」
「そ、そんな……」
そんなのってあり? まさに、絶句の一言だ。その人がコージにうえつけたトラウマのせいで、私はコージにフラれたの? 嘘でしょ? 私の為を思って、付き合わなかった。そういうことだよね?
嘘のような本当の話。でもどこか疑ってしまう。それって本当?
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