第1章

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と、いきなり身体が反転。 「わっ」 驚きの声と同時に、ガチャンと扉のしまる音――、そして私はコージの胸の中にいた。 「えっ……」 わ、私、抱きしめられてる? 理解するのに数秒。そしてそれを理解して、パニックに落ちる。だって、生まれてこのかた、家族以外にこんな風に抱きしめられたことはないもん。ドキドキして心臓が壊れそう。 ギュッと背中に回されたコージの腕が私をしっかりと抱き寄せる。頬にあたるコージの胸。 あれ? コージの心臓もドキドキしてる? 伝わる鼓動に、嬉しさが込み上げた。 コージも私にドキドキしてくれてるのかなぁ? うっとりと目を閉じそうになった時、 「ごめん……フライング」 かすかに聞こえたコージの声。 「?」 フライング? 意味がわからなくて、ほんの少し、距離をとって、コージの顔を見ようとしたら――、 後頭部にまわされたコージの大きな右手に、見ないようにと再び胸に押さえつけられた。 「今は、見ないで……」 「……」 「後、少しだけ……」 そう言ってもう一度ギュッと抱きしめられた。 「よかった……間に合って……」 切なげな呟き……余裕そうに見えてたコージの発言や行動。 本当は違った? もしかして、私と同じで必死だった? ほんの少し垣間見えたコージの心に、確かに、私の心が震えた。
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