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秋良は、
ホテルの最上階にあるスイートルームから、
ビル群を縫って走る光の流れを眺めていた。
それは車が放つヘッドライトの光の群れで、
女性の好みにあわせてロマンチックに『地上に流れる天の川』とつぶやきたいところだが、
秋良の見え方は違っていた。
彼はその光の流れが、
夜になっても休むことなく流れ続ける赤血球にしか見えない。
彼は不思議でしょうがない。
人はなぜこんなに動き続けられるのだ。
働き、
遊び、
セックスし…。
そんなに動く原動力は、
いったいどこから来ているのだろうか。
多くの人は、
今を楽しみ、
将来を作るためというだろうが、
秋良にしてみれば、
そんな動機もピンとこなかった。
今の商売で充分に稼いでしまった彼は、
これ以上の財力を手にしても何の達成感もない。
かといってドラッグにはまるほどの熱さもなく、
ただ人に、
特に女性にクールに接して憂さを晴らすのが、
彼が出来る精いっぱいのことだった。
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