第5話 温もりだけが残る情事

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  倉坂さんと私以外、他に誰もいない狭い店内。 マイナーなBGMが荒くなる呼吸を掻き消してくれる。 ただ唇を合わせる行為が、こんなにも気持ちよくて離れがたいなんて 知らなかった…。 絡み合う舌をもっと味わいたい。 少しの隙間もないくらいもっと塞がれたい。 もっと、…もっと。 椅子にすわったままのキスは、態勢が傾くにつれて不安定で、体がぐらつく。 ちょっとよろけた私の体を倉坂さんの大きな手の平が容易に支えてくれる。 力が抜けてしまった私の顔を見て、笑みを浮かべる目の前の魔性。 「大丈夫?」 「…はい」 気遣ってくれている言葉。 でも、支えてくれてるはずの手はいたずらに私の背中や腰を撫でまわして思考を溶かす。 「っぁ…」 ゾクリゾクリとゆっくり熱く私をなぞる手に我慢できなくて少しの喘ぎが漏れる。 「敏感だね。」 「…え?」 くらくらする頭は返す言葉を見つけられない。 「っあ!」 何も抵抗しない私に承諾と取ったのか、倉坂さんの左手が薄い布越しの胸を掴む。 谷間が見える作りの鎖骨下まで空いているトップスの為、指先が直接肌に食い込む。 痛くもなく、優しすぎない感触に、やはり経験の豊富さを感じずにはいられなかった。 そのまま強弱をつけて揉まれて、腰下まで手で撫で回されて、顔はじっくりあの強い獣の瞳で観察される。 すべてが刺激が強すぎて、追いつかない。 「ま、待って、」 「ん?どした?」 振り絞って声を出せば、否定の言葉を塞ぐためか深い口づけが落とされる。 「…っ……んっ」 じっくり獲物を味わうように、私の口腔をまさぐる弾力のある舌。 煙草を吸ってたはずなのに全く気にならない。 なんで、こんなに気持ちイイの…。
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