第5話 温もりだけが残る情事

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私の舌が彼を愛撫するたびに、その男らしい顔が歪んで吐息に熱が入るのが嬉しい。 男の人の感じる顔を、こんなにいとおしく嬉しいと思えるなんて…。 強弱をつけて舌を絡ませたり、吸い上げたり、持ちうる技術を全て使った気がする。その度に倉坂さんの口元から漏れる声や顰める顔つきに体が疼いて、濡れてしまう。 いつまでも出来ると思って愛撫をしていると、頭をやさしく撫でられてストップをかけられてた。 「もう、いいよ。」 「……ぁい」 その言葉の意味が、この後の行為がたやすく想像できて、今ならまだ、止められるかもしれないとどこかで思った。 そんな私の思考をよそに、倉坂さんは私に机に手をつくように促す。 そして突き出した私のお尻や太ももの裏を撫でながら、中心を再度確認するようにほぐしていく。 「ここじゃ背面座位は出来ないから、ごめんな」 「あっぇ、え、や、それは…」 含み笑いをしながら、そんなこと云わないで… 声にしたかった言葉は、遠慮なく沈んできた熱い感触にかき消された。 久しぶりに男の人を受け入れたそこは、十分に解れているのに圧迫感に少し息苦しくなる。 ゆっくり侵入しきった後、確かめるようにゆっくり前後に動かされて、だめだ。 声が出てしまう。 机に突っ伏すように上半身を倒して口元を押さえた。 ギシギシと机と床が振動で音を奏でる。 自分たちの行為で成されているその音がまた、新鮮で、刺激的で、またもや興奮が増すのが解った。 でも、激しく興奮しながらも 胸に痛みが、悲しみがじわりじわりと染みのように広がる。 自分も悪い。 倉坂さんだけが悪いんじゃない。 だってこれは同意の上での行為だ。 だから、お互いに責任がある。 結局その日、私たちはゴムを付けずに 2回も求めあい、 大した会話もなく、 逢瀬を終えた。
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