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今から二十五年程前。現在は専業主婦をしている飯部さんがまだ三十代だった頃、パートをしていた職場で冴木さんという女性と友達になった。
冴木さんはシングルマザーで、幼稚園に通う娘を育てていたそうで、職場ではいつもその娘の話を聞かされることが多かったという。
飯部さんは冴木さんの家へ遊びへ行くこともあったそうで、その度に一つだけ、どうしても不可解に感じることがあった。
飯部さんが遊びに行くと、冴木さんの娘は大抵奥の部屋で遊んでいることがほとんどだったそうなのだが、一人娘のはずなのに毎回誰かとお喋りをする声が聞こえてきていたという。
最初は、近所の子が遊びに来てるのかなと特に気にせずいたそうだが、どういうわけか何度家を訪れても、毎回聞こえてくるのは女の子の声ばかりで、一緒に遊んでいるはずの友達の声は一度も耳にすることがなかった。
「気にしないで。いつもあんな感じで、一人で遊んでる子だから」
さすがに不審に思った飯部さんが一度問いかけたことがあったそうだが、冴木さん本人はそんな言葉を返すだけで、特に気にかけている様子も見られなかったという。
架空の友達、俗に言うイマジナリーフレンド。または、お気に入りの人形でも遊び相手にでもしているのかもしれないな。
飯部さんも、最終的にはそんな結論を自らに言い聞かせ、他人様の家のことだからとあまり意識しないよう努めるようになった。
それから暫くして、飯部さんがお菓子を手土産に冴木さん宅を訪れた時のこと。
「これ、娘さんに食べさせてあげて」
そう言ってお菓子を差し出した際、冴木さんは奥の部屋で遊んでいた娘へ、お菓子のお礼を言うようにと飯部さんの前へと呼び出した。
そうして、お菓子を受け取りながらお礼を言い、嬉しそうに奥の部屋へと戻っていく娘の姿を目で追っていた飯部さんは、そこで得体の知れないモノを見てしまうこととなった。
「奥に戻っていく時、部屋の戸を開けて廊下へ出る瞬間に一瞬だけ見えたんです。廊下に、娘さんを待つように立っている小さい男の子みたいなモノが。ただ、服装は男の子が着るような服だったんですけど……その子、顔がなかったんです。真っ白で無地の陶器みたいな、妖怪に出てくるのっぺらぼう? あんな見た目の顔でした」
この女の子は、いったい毎日何と遊んでいたのか。
飯部さんはこの日を境に冴木さん宅を訪れる機会を減らし、やがて退職を機にそのまま疎遠になってしまったという。
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