短編小話

‡リストカット‡

「リストカットって知っていますか？　自傷行為で、自分の腕をカッターで切ったりする」

　そう言って話を聞かせてくれたのは、四十代前半の女性Ｋさん。

　今から十五年程前、Ｋさんの従姉はある男性と交際をしていた。

　職場恋愛で交際に至ったそうなのだが、付き合い始めて半年が過ぎた頃から、従姉の身体にある異変が生じ始めたという。

　朝目を覚ますと腕にピリッとした痛みが走り、何だろうかと服を捲って確かめると、まるで剃刀を薄く引いたかのような真横に伸びる切り傷ができている。

　それが一度ではなく、月に数回。左右の腕に刃物で軽く皮膚を裂いたような傷ができることを繰り返した。

　布団に刃物など入れて寝たりはしていないし、何故こんな傷ができてしまうのか、従姉は首を傾げることしかできなかった。

　まさか、自分で寝ている間に腕を切っているなんてこともないはず。

　原因が特定できずに悩んだ従姉は、ある日交際していた男性にこの不思議な現象について打ち明けた。

　従姉が一通りの説明をして聞かせると、男性は神妙な表情で何かを考えるように黙り込んだ後、

「俺の妹、精神に障害持っててさ。昔からよくリスカ繰り返してるんだよね。普段は薬で落ち着いてるんだけど、定期的にやっちゃうみたいで。それと似た精神的な症状かもしれないから、メンクリとか行ってみた方が良いんじゃないかな」

　と、そんなアドバイスをされたという。

　従姉自身、自分が精神障害を発症しているなど信じることができず、結局この時の相談は無意味なものとなってしまったのだが、それから更に半年、交際して一年が経過した頃になって、従姉は自分の腕に傷ができる原因と思しき答えを知ることとなった。