短編小話

‡家にいたのは……‡

そう言い返すも、お婆さんはそんなことはあり得ない。空耳か勘違いではと真に受ける様子もない。

仕方なしに、奥さんはお金を置いて家に帰ったそうですが、それから暫くして他の人たちもこの奥さんと同じような現象を体験したと言い始めた。

何度呼び鈴を押しても誰も出てこないのに、階段を下りてくる足音だけは聞こえた。

廊下を歩く足音が近づいてきたのに、結局誰も対応してくれなかった。

そんな声が頻繁に聞かれるようになるも、地主のお婆さんは

「以前のように日中人がいることがほとんどないから家を空けていることが多い。だから対応できないことが頻繁にあるだけで、居留守なんかはあり得ない」

と言い張る。

そして、やがて近所の人たちは足音の正体が自殺した嫁さんが家の中を歩き回っている音なのではと話始めた。

亡くなった今も、誰もいない日中、家事をこなして忙しく動き回っているのではないか、と。

私の記憶にあるそのおばさんは、いつもにこやかで優しそうなイメージの人でした。