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竪毬さんというウエイトレスが苛々しているのは、毎日来る奇妙な男のせいだった。
毎日、時計が右腕や左腕へ移動していた。両利きなのならば問題はないが、毎日開いて打ちこんでいるパソコンの操作は、右手の人刺し指オンリーである。
WI-FIを無料開放しているので、ネットでも見ているのかもしれないが、とにかく朝から夕方までカタカタカタとパソコンを操作し、尚且つ注文するのは珈琲とサンドイッチのみ。
そして、一番苛々している原因は、――独特な煙草の匂いだった。
『トレジャー・ブラック』
世界で最高級と言われてる、ゴールドの刻印が眩しい煙草。
それを男は一日中吸っているのだ。
一箱20本で2100円。店長が言っていたのを竪毬は覚えている。
それを一日、一箱から二箱吸っている。
竪毬が店の前で育て始めたハーブや華、苺たちの存在をかき消し、店中に煙の残骸が残っている。
外のテーブルへ案内し移動しても、匂いは中に入って来るから忌々しい。
院生でお金が無く万年貧乏学生には、煙草にそんなにお金を使う毎日パソコンで遊んでいるあの男の顔を見るのが嫌で仕方が無かった。
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