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「いろいろ考えんでええ、暑いところで釣りでもしような」
にこにことイトやんが笑いながら持ってきたのは小笠原のパンフレット。
濃い青の海と大物と言われる魚に目を奪われる。
「へぇー、すごいなぁ。関空から行けるん?」
「行かれん。飛行場がないさかいに。浜松町から竹芝桟橋に移動して船で25時間半やね」
「25時間半!? えらい遠いなぁ。いや待て、これ、日程も大変なんちゃう? それに浜松町って東京やろ」
「さすがコイチャンや。1回行って帰るだけで6日間。前泊するなら一週間やな。で、そこも東京都や、東京都小笠原村」
パンフレットの海からイトやんに視線を移す。
「あんた、そんなに休めんのん?」
イトやんは胸をはる。
「七海ちゃんがな、コイチャンには世話になってるし、それに頼まれてんねんからそれくらいしてみぃって」
わざと一呼吸置いて、
「ええ女やろ。ホント、僕には勿体ないわ」
屈託なく笑う。僕もこの無神経なような、天然なイトやんに何度も救われている。
イトやんの後ろにいる七海ちゃんにも感謝やな。
「ほなら、行こか。できれば2回分がええわ」
行くならばのんびり、何も考えんと。
帰ってきた時に、何かが変わってくれたらええと望みを抱きながら。
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