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‐萌side‐
荒木くんの言葉に黙る皆。
荒木くんの背中越しに見えたのは、雪弥くんに涙目で抱き着く佐川さんだった。
ズキっと痛む心臓。
苦しいな……。
雪弥くんに触らないで。
そう思うのに言えない。
言っちゃいけない。
荒木くんの服をギュッと掴むと荒木くんの腕の力が強くなった。
「住吉が俺らを騙す?そんな器用な事出来るんなら、もっと上手く仕事片付けてんだろ?」
うぐっ!!
今心臓にグサッときたよ!?
遠回しに『仕事遅い』って言ってるよね、荒木くん!?
「お前らが佐川を信じるならそれでいい。でも俺は住吉を信じる」
その言葉に佐川さんは荒木くんを見た。
「どうして美智を信じてくれないんです!?荒木先輩!!」
ヒステリックにそう叫ぶ佐川さんを、まるで可哀想な子を見るようにして見る荒木くん。
「だってお前、必死だろ?」
「え……?」
「本当に怖いなら、叫ぶ事なんて出来ない。住吉から離れるように走り出して助けを求めるのが普通じゃないの?」
荒木くんがそう言うと佐川さんは青ざめた。
そんな佐川さんを庇うようにして立つ周りの人達。
「そんなの住吉さんが佐川さんに何か脅しとか……」
「だとしたら尚更叫べないだろ」
「だけど……!!」
「うるせーよ。住吉を悪くしたいならそれでいいんじゃない?俺はお前ら非難するけど」
荒木くんはそのまま私の手を握って皆から離れるように歩き出した。
しばらく歩いて周りの声が聞こえなくなると荒木くんは立ち止まって私を振り向いた。
「大丈夫か?住吉」
繋いでいない方の手で頭を撫でてくれる荒木くん。
それが嬉しくて、優しくて……。
自然と涙が出てしまった。
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