623人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「あ、荒木くん?」
そう声をかけると、まだ赤い顔で私を振り向いた。
「ごめん。俺、全然気付かなくて普通に歌ってた……」
「う、ううん!!ちょっとびっくりしたけど大丈夫!!荒木くんって歌上手いんだね!!」
そう言うと恥ずかしそうに頬をかいた。
「俺、昔歌手目指しててさ。ちょっとボイストレーニングとかしてたんだ。だから人より少しだけ上手いって感じ」
「少しだけじゃないよ!!本当に上手かった!!また聴きたくなるくらい!!」
そう言うと荒木くんは目を丸くしてから吹き出した。
「ははっ!そっか。住吉がそう言うならまた歌ってあげる」
「本当に!?ありがとう!!」
嬉しくて笑顔を返すと荒木くんが赤い顔で顔を逸らした。
それからクレープ屋さんを見て固まった。
「荒木くん?」
「……そういえば。住吉と初めて会ったのって、この場所だっけ」
そう言われて同じようにクレープ屋さんを見る。
確かにそうだ。
就職活動中にこの場所で荒木くんに出会ったんだ。
私が走って出口に向かおうとしてたら、そこに同じように走って来た荒木くんとぶつかった。
当然コケた私は鞄の中身をぶちまけて荒木くんに何度も謝ったっけ。
「あの時は本当にごめんね。荒木くんもコケちゃったし……」
「いや、あれは住吉だけのせいじゃないって。俺もバイト遅れそうだったから慌ててたし。でもあの時住吉の荷物拾ってる時に今の会社の資料見つけたんだよな」
「そうだったね。荒木くんが『俺もこの会社受けるんだ』って言った時は本当に驚いたよ」
そう言って笑うと荒木くんも笑った。
「俺も驚いた。しかも入社式でまた住吉に会えたし。あの時本当に嬉しかった」
「私も。知ってる人がいてちょっと嬉しかった」
入社式で荒木くんに声をかけられて驚いたのは今でも覚えてる。
荒木くんは私の手を握ったままクレープ屋さんへ歩き出した。
.
最初のコメントを投稿しよう!