625人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
ボーッとしていると荒木くんが私の手から包丁を奪った。
それにハッとして荒木くんを見る。
「あ……」
「ボーッとしてると危ないぞ?」
「……ごめん」
「気になる?」
「え?」
「佐川と中村の事」
核心を突かれて俯く。
荒木くんは寂しそうに笑うと手を洗ってから携帯を取りに行った。
キッチンへ戻ってきた荒木くんの手には荒木くんの携帯。
そして一つのメールを見せてくれた。
「これ、見て」
「え?」
そのメールは商品開発部の先輩からのものだった。
『何早退してんだよ!便乗か!(笑)佐川と中村は別にいつも通りの距離だぞ?ていうか、なんか中村イライラしてるし。佐川と付き合ったわけでもなさそう。そんなに気になるんなら住吉さん拉致ってんじゃねーよ』
そのメールを読んでホッとした自分がいた。
雪弥くんと佐川さん、付き合ってないんだ……。
雪弥くんを自分から離さないといけないって分かってるのに、まだこんなに雪弥くんを求めてる私がいる。
荒木くんに甘えて、雪弥くんを欲しがって……。
「最悪だね、私……」
そう言うと荒木くんは私を抱き締めた。
「……住吉は、中村と別れたいの?」
「え……?」
「中村を自分から引き離そうとしたり、中村から離れようとしたり。中村の事嫌になった?」
「それは……っ」
「中村は住吉を信じてたよ」
「え?」
「住吉が佐川に嫌がらせするわけないってちゃんと分かってた。それなのに中村を自分から引き離そうとするのはなんで?」
荒木くんの問い掛けに何て答えたらいいのか分からない。
何故だか涙が溢れた。
.
最初のコメントを投稿しよう!