「ただ、君が好きだから」

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ボーッとしていると荒木くんが私の手から包丁を奪った。 それにハッとして荒木くんを見る。 「あ……」 「ボーッとしてると危ないぞ?」 「……ごめん」 「気になる?」 「え?」 「佐川と中村の事」 核心を突かれて俯く。 荒木くんは寂しそうに笑うと手を洗ってから携帯を取りに行った。 キッチンへ戻ってきた荒木くんの手には荒木くんの携帯。 そして一つのメールを見せてくれた。 「これ、見て」 「え?」 そのメールは商品開発部の先輩からのものだった。 『何早退してんだよ!便乗か!(笑)佐川と中村は別にいつも通りの距離だぞ?ていうか、なんか中村イライラしてるし。佐川と付き合ったわけでもなさそう。そんなに気になるんなら住吉さん拉致ってんじゃねーよ』 そのメールを読んでホッとした自分がいた。 雪弥くんと佐川さん、付き合ってないんだ……。 雪弥くんを自分から離さないといけないって分かってるのに、まだこんなに雪弥くんを求めてる私がいる。 荒木くんに甘えて、雪弥くんを欲しがって……。 「最悪だね、私……」 そう言うと荒木くんは私を抱き締めた。 「……住吉は、中村と別れたいの?」 「え……?」 「中村を自分から引き離そうとしたり、中村から離れようとしたり。中村の事嫌になった?」 「それは……っ」 「中村は住吉を信じてたよ」 「え?」 「住吉が佐川に嫌がらせするわけないってちゃんと分かってた。それなのに中村を自分から引き離そうとするのはなんで?」 荒木くんの問い掛けに何て答えたらいいのか分からない。 何故だか涙が溢れた。 .
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