「ただ、君が好きだから」

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「いきなりで混乱してると思う。だからゆっくりでいいよ。ゆっくりでいいから、俺のこと考えて」 そう言うと荒木くんはそのままご飯を作り始めた。 ドキドキして息がしづらくて……。 荒木くんは、優しい同僚だって思っていた。 こんな私にも優しくしてくれる。 私のことを、何の疑いもなく信じてくれる。 嬉しくて、荒木くんの側はとても暖かい。 そんなのもうとっくの昔から気づいていた。 でも……。 私なんて誰からも好かれるわけがないって……。 雪弥くんだけが、特別なんだって……。 そう思っていたのに……。 どうしたらいいの? こんなの初めてで、分からないよ……。 とりあえず何もしないままなのはいけないと思い荒木くんの手伝いをする事にした。 何も話さないでいると荒木くんはため息をついた。 「住吉」 ビクッと反応すると荒木くんは寂しそうに笑った。 「何もしないから」 「え……?」 「だからそんなに警戒しないで?」 「警戒してるつもりは……」 「驚かせたことは本当にごめん。でも、どうしようもないほど住吉が好きなんだ。中村には、負けたくない」 どうしよう。 顔が熱くて上げられない。 「でも住吉と気まずくなるのは嫌だ。だからいつも通りに接してくれたら嬉しい」 「荒木くん……」 「わがままでごめんな?」 そんな悲しそうに言われたら何も言えないじゃないか。 私は頷いてから荒木くんに笑顔を見せた。 そんなぎこちない笑いでも荒木くんはホッとしたように顔を緩ませたのだ。 ちゃんと知っていこう。 そしたらきっと、雪弥くんの事だって……。 頭の中から雪弥くんを消すように頭を振って、私は荒木くんに話しかけた。 ~ただ君が好きだから~ ・
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