電話越しに聞こえる甘い声

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挑戦的な目をした荒木を固まって見る事しか出来ない。 「中村は、住吉と佐川、どっちを信じてんの?」 「え……?」 「見たとこ、中村が佐川と付き合ってる感じは無さそうだし?まだ住吉の事好きっぽいから」 「……好きだよ。すげー好き。だから、今萌が荒木と一緒にいるって考えると気が狂いそうなんだけど」 そう言うと荒木は目を見開いてから吹き出した。 「なんか、中村っぽくないな」 「なんだよそれ」 「だってお前さ。入社式の後の飲み会で基本的に『どうでもいい』とか『勝手にしろ』とかしか言ってなかったじゃん?俺、中村はモノとか人に執着しない奴だって思ってた」 「……間違ってはない。俺、面倒な事嫌いだから」 「じゃあ……」 「でも萌は別だ。萌だけは、いくら荒木でも譲れない」 俺の周りの世界を変えてくれた萌。 自分より他人の考えで俺を何度も助けてくれた。 萌の方がもっと酷い傷を背負ってるのに。 俺は真っ直ぐ荒木の目を見て口を開いた。 「絶対、奪わせない」 抱き締めただけで赤くなる顔も 頑張ってキスに応えようとしがみついてくる姿も キスの後の、とろけそうな表情も…… 萌の全部、俺だけが知ってればいい。 「俺、負けず嫌いだし、超ワガママなんだよね」 フッと笑ってからパソコンと向き合う。 荒木は目をパチパチとさせてから吹き出した。 「いいよ。俺もだから」 そう言って荒木もパソコンと向き合う。 今は荒木のそばに居るかもしれない。 でも必ず俺のそばに連れ帰るから。 頭の中で萌が俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。 さて……。 「何からしようか」 そう呟いて仕事を始めた。 .
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