何て、単純で幸せな話なんだろうか

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憧れて入った会社。 最初はとても楽しかった。 だけど今は、とても苦痛で仕方無い。 「お前資料整理にどんだけ時間かかんだよ!!」 「す、すみません……っ!!」 「もう新入社員じゃねーんだよ!!お前と同期は皆出世してんぞ!?お前だけいつまで経っても進歩しない!!」 「はい……っ!!」 「新入社員の方がまだ使えるんだよ!!このクズ!!」 上司にこうやって怒られるのはもう何度目だろう。 新入社員の子にもクスクス笑われる始末。 私と同期の子達は皆仕事が出来るのに、私だけ無能なまま。 元々何をするのにも速い方ではない私はこの会社ではリストラ確実な存在となっている。 資料整理も出来ない、企画書もあげられない。 誰もが私を必要としていないのには気付いている。 未だに怒っている上司に縮こまっていると後ろから手が伸びてきた。 そして上司の前に紙の束を置く綺麗な手。 「それ、住吉(すみよし)の分のです。時間余ってたんでやっときました」 その声を聞いただけでドキッとしてしまう。 チラッと振り返ると黒髪イケメンが涼しげに立っていた。 中村 雪弥(なかむら ゆきや)くん、27歳。 黒髪でイケメンで仕事が速くてとてもクール。 彼はこの会社の女の人を虜にしている王子様。 私と同じ歳で、しかも同僚である。 こんな有能な彼と同じ職場なら尚更私の無能さが際立ってしまう。 普通なら彼のことを嫌うんだろう。 だけど私は憧れてしまった。 それだけならいい。 私は彼を『好きになった』。 こうやって、私を助けてくれる彼を。 住吉 萌(すみよし もえ)27歳。 この気持ちは伝えるつもりはない。 .
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