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船を降りたあと私と雪弥くんは雪弥くんの実家へ帰ってきた。
だってドレス返さないといけなかったし……。
家の中に入った瞬間突き刺さる視線。
そんな中で私は『いつ首を締められるのか』と考えていた。
「雪弥様」
立ち尽くす私達に近付いてくる年老いた男の人。
その男の人を見て雪弥くんは口を開いた。
「播磨(はりま)」
「おかえりなさいませ。紅茶を用意しましたので、着替えが終わりましたらベルを鳴らして下さい」
「紅茶なんていい。着替えたらすぐに帰るから」
「さようでございますか。しかし、住吉様には少し残っていただきますが」
「は?」
雪弥くんが播磨さんを睨む。
播磨さんはニコニコしながら私を見た。
「初めまして、住吉様。私は中村家で執事長をしております播磨と申します」
「あ……。えっと……」
「住吉様の事は存じて居ります。恐れ入りますが、このまま私について来て下さい」
笑っているのに、笑っていない。
この笑顔は何度も見てきた。
本当は凄く怖い。
だけど、ワガママなんて言えないから……。
一歩踏み出すと雪弥くんに腕を掴まれた。
「萌!!」
「雪弥くん……?」
「行かなくていい!!播磨がいるって事は父さんが帰ってきてるって事だ!!行ったら何されるか分からない!!」
そうなんだ……。
必死な雪弥くん。
そんな雪弥くんを見れただけで満足だった。
私なんかの為に必死になってくれてるんだって。
「雪弥くん」
ゆっくり雪弥くんの手を放す。
それから雪弥くんに笑いかけた。
今度は悟られないように上手に。
「大丈夫だよ、雪弥くん。痛いのには慣れてるから。ありがとう」
「萌……っ!!」
私の手を掴もうとした雪弥くんの手を掴む周りの男の人。
雪弥くんが来れないように、何人も雪弥くんの前に立ちふさがった。
雪弥くん。
私は雪弥くんがここの人達にとってとても大切な人なんだって分かった。
だから私みたいな奴に雪弥くんを穢されるのが許せないんだ。
ごめんね、雪弥くん。
今日、夢を見せてくれてありがとう。
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