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「りーっーちゃーん!!あーさだよー!!」
バンッ!!
「近所迷惑」
「・・・お、起きてたんだ。関心関心」
私によって勢い良く開かれたドアに、これまた勢い良くぶち当たったらしい真っ赤になった額を擦りながら意外にもキチッと着こなされた制服でこのお節介男は本当に迎えに来てしまった。
「・・・あっ、まだ制服着てねーじゃん。待ってるからちょっと急いでなー」
「こんなとこで待たれたら迷惑。中入って。玄関にいるもよし、リビングにいるもよし」
「えっ!?良いのー!?おっじゃまっしまーすっ!!」
「『良いの』も何も今更でしょ」
そう。今更だ。
私がこのマンションで独り暮らしを始めたのは去年の春。つまり高校に入学した、その春だ。それから康介は何かにつけてここへ足を踏み入れていたからそんなの、今更なのだ。
「じゃっ、遠慮なくリビングで待っとく」
「分かった」
返事をしてから自室に向かい、着替えを済ませて充電器から携帯を抜いてそれをブレザーのポケットに突っ込めば完了。
「康介、行くよ」
玄関へと歩きながらリビングに声をかけて、康介の返事もそこそこに靴を履いて部屋を出た。
「置いてくなよなー」
少しして康介は慌てたのか、内側に折れ曲がった左足の靴の踵を指で整えながら出てきた。
ガチャリ。
部屋に鍵をして、行ってきます。
「天気良いなー、今日」
ヒラヒラと舞落ちる桜の花びらに手をかざしながら、呟いた康介。
「確かにね。こんな日は『春眠暁を覚えず』だねー」
「何それー?」
「・・・」
「何その『うわーバカだなー』とでも言いたそうな目は」
「・・・うわーバカだなーと思って」
「どうせバカですよーだ」
腕組みをしてそっぽを向いた。
「・・・いじけるとこでもないでしょ。あんたそれでも高校二年生?なんで毎日無遅刻無欠席で授業に出てる人間が遅刻常習犯サボりまにでも分かるようなことも分からないのよ。それ、高校行ってる意味あんの?」
「そ・・・そこまで言われたらさすがの俺も傷付く・・・」
「それはそれは御愁傷様」
桜ロードに入れば学校もすぐそこで、登校中の生徒達の群れに加わった。
久し振りだった。
と言うか、高校に入って始めてだった。こんな、普通の時間に、普通に登校するなんて。だからこんなにも人通りが多いこの道を歩いたことは未だかつてなかった。
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