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それから二人の間にはフェンスよりも強力な沈黙がはしった。
小さい頃もよく、こんなことがあった。私は今よりもっと口数少ない子供だったから。会話が途切れることなんて、しょっちゅうあった。
そんなとき、それを破るのは康介だった。こういう空気に先に耐えられなくなって先に口を開くのは、それは今でも変わってなかった。
「あのさ、俺達が始めて話た時のこと、覚えてる?」
「あー、私がカエル捕まえて持っていったらあろうことか気絶したあの時?」
「ちーがう。それはその次の日」
「あぁ、分かった。ジャングルジムから降りられないって泣きじゃくってたあの・・・」
「それは遠足の時の話。しょうがねぇだろ。あんなおっきいジャングルジム登ったの始めてだったんだから」
「じゃあ・・・」
「もういいよ。覚えてないならー」
『ふんっ』なんて、子供みたいなすね方して。何となくだけど腕に顔を埋めたんだろうなって、背中越しに分かった。
何となく、だけど。
だけどそんなの、
「う、そ」
「何がー」
「嘘だよ。覚えてるよ、ちゃーんと。・・・覚えてる」
「律・・・。・・・そっか。へへ。なら、良いんだ。覚えてるなら、いい」
忘れられるはずがない。
忘れたくても忘れない。
きっとこれからも。
あんなバカな子、始めて見たもん。
キーンコーンカーンコーン・・・
不意になり響く一時間目終業のチャイムは私を一気に現実に引き戻す。
「じゃあ俺行くわ。律も来いよな。良い人だぜ、あの人は。先生はさ、他の先生とは違うと思うんだよね。なんつーか・・・言葉で上手く表せねぇけど。何か、一生懸命っつーのが伝わってくる。少なくとも律のこと、どの教師よりも考えてくれてるってことくらいは信じてやって」
わざわざ振り返って見なくても片手をひょい、と挙げながら立ち去る姿が容易に想像できた。
キィー、バタン。
屋上の扉が閉まる音。
「忘れるはずが、ないんだよ」
風に描き消されそうな自分の声。
キーンコーンカーンコーン・・・
三時間目始業のチャイムは私を過去へと連れていく。
ーーー十三年前。
『りっちゃん、一人で何してるの?こんなところで一人でいないであっちでお友達と遊ばない?ほら、楽しいよっ。行こう?ね?』
あぁ、またか。
いいのに。べつに。
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