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その紙のほとんどが恐らくクラス全員に配られるであろう月間行事予定。それらの中に明らかに手書きのコーナーが付け加えられていた。
『学校は楽しいことばかりじゃない。が、つまらないことばかりでもない。学校には学校にしか学べないことがあって、もっと言うと高校には高校にしか学べないことがたくさんある。みんなにはそれらを学べる限り学んでほしい。遊べる限り遊んでほしい。勉強できる限り勉強してほしい。今しかできないことに、全力になってほしい。そうやってこのクラス全員でこの高校始まって以来の最高最強の2年3組にしてやろう。そうして最後にはきっと』
きっと。
きっと・・・
・・・き・・・っと・・・
『俺の全てに惚れるでしょう』
「だまれ」
「え?何が。俺めっちゃ良いこと書いてない?」
なにそのやりきった感満載の顔。何もやりきってないから。むしろやっちゃってるから。
「いやー、締めの言葉が見つからんくて。まぁここは教師らしい一言でと思ってさ」
「教師あるまじきの間違いでしょ」
「そうかー?・・・けどさ。俺の言いたいこと、少しは伝わった?俺話すの苦手だから。書いてみた」
「・・・私はこれからもここでいい。学校には来てるんだからもう勘弁してよ。一人にしててよ、頼むから」
「律がどうして教室に来なくなったのかとか、そんなことは無理に聞いたりしない。あっ、もちろん話しならいくらでも聞くけどな。だけど嫌なら話すこともない。けど俺はマジだ。軽い気持ちで生徒と向き合ってきたつもりもないし、これからだってそう。俺は教師だ。けどそれ以前に一人の人間なんだ。誰一人悲しい思いはしてほしくない。どうせなら笑っててほしい。楽しいと思える時間を少しでも増やしてほしい。それを願うのは当たり前のことだろ。何かの縁あって俺はお前の担任だ。俺は何度だって言う。しつこいぞ。諦めるなんて言葉、一番嫌い。ちゃんと、お前には居場所があるって教えてやる。だから一人でいいとかそんな寂しいこと言うな」
「・・・」
一人でいい。
そんなことを本気で思ってしまえる人間がこの世界に果たして何人いるのだろうか。
分からないけど、少なくとも私はそんなに強い人間にはなれなかったらしい。
これはすがるような、願い。
それなりに、一人を選んで生きてきたつもりだった。
それをとやかく言う人間もいなかった。
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