2人が本棚に入れています
本棚に追加
side 康介
『おい南。ちょっといいか?』
律が登校中体調を崩した日、担任に呼ばれて小さな会議室のようなところに連れられてそこで少し話をした。
『笹川とはどんな関係か聞いてもいいか?』
『っえ?』
『ああ、いや。今朝一緒に登校していたみたいだったから。あいつのこと、何か知らないか?』
『律とは、幼馴染なんだ。・・・先生、あいつのこと心配?』
『そりゃあな。大事な俺の生徒だ。このまま放っておく気はさらさらないよ』
『・・・あの、さ。あいつ・・・中学二年の春まではあんなじゃなかったんだ。ちゃんと授業にも出てた。口数がそう多くないとこは相変わらずだったけどだからって今みたいに・・・なんて言うのかな・・・進んで一人でいるような子でもなかった。あいつに何があったのかは詳しいことまでは俺にも分かんない・・・けど、助けてやってほしい・・・。律には笑っててほしいから・・・』
この人にならたくしてもいいと思った。
本当はいつだって俺だけがあいつの救いでありたかった。
いつだって、俺だけを頼ってほしかった。
だけど俺は気付いてしまった。俺だから、救えないこともあるんだと。
距離が近すぎる、俺だからこそ・・・。
「・・・わお、びっくりした。教室に律がいる」
水曜の一時間目。朝のショートホームルームが終わってトイレに行って、教室に戻ってみればこの教室にはまだ馴染みのない俺の良く知る顔があった。
「うん。数学どんなにテストが良くってもちゃんと授業に出ないと単位落とすぞっておっかない先生に脅されちゃって」
そう言った彼女は窓際の一番後ろの席にクラス中の視線を集めながら椅子に浅く腰掛けてだらりと座っていた。
「・・・」
あの人想像以上に容赦ないな・・・。
「ん?けどさ律。そんな脅し今まで他の先生からも散々受けてきたろ?なんでまた今回はそんな話に乗ったの?」
そこが律の席でないことは百も承知で俺もまた自分の席ではないその隣に居座った。
「それはねー・・・」
「おーいお前ら、席につけー。授業始めっぞー」
教室に入ってすぐ、先生は律の姿を認めたらしい。
それはそれは嬉しそうに、微笑んだ。
「内緒だよ」
律もその時は、笑ってた。
見たこともない笑顔で。
・・・その時、は・・・。
最初のコメントを投稿しよう!