2人が本棚に入れています
本棚に追加
side 担任の先生
ガラガラ。
扉を開ければ君がいた。ついこの間まで咲き誇っていた桜の花びらは散り、木の枝を離れ灰色のコンクリートにその鮮やかな色を付けた。そんな風に、春は終わりを迎えんとしていても時折窓から入る風は暖かく春のそれを感じさせた。
君がいて、風が心地いい。
なのにおかしい。
この扉は、今まで君に会うために開けてきた扉より軽いんだ。
軽いし、嫌な音もしない。
静かに、音も立てずに開いてしまう。
そこから中に進んだってその先の君は笑いもしない。話もしないし、背を向けることさえも。ただ真っ白なベッドに横たわり微動だにせずそこにいて。悲しみの色に満ちていた。
「・・・南、また来てたのか。お前ここのところずっと寝てないだろ。少しは休め。な?」
彼の顔は見事に憔悴しきっていた。
その頬は痩せこけて、目の下にはくまがくっきりと表れていた。
「・・・大丈夫です。夜にはちゃんと母さんに交代してるから・・・」
そう言った彼の声も最早南のそれとは程遠い。
「嘘だ。顔見りゃ分かる。お前の母さんも心配してる。その顔じゃ食ってもないだろ。・・・ほら」
ガサゴソと袋をあさって買ったばかりのまだ冷たさ残るペットボトルを取り出し、手渡した。
「食いたくないならせめて飲め。何か腹にいれないとお前がもたないぞ」
「・・・ありがと・・・ございます・・・」
南はそれを受け取るもやはり口をつけようとはしない。
「南、さっきお前の母さんと話してきたんだが。今日からはちゃんと帰れ。俺の方は取り敢えず落ち着いたから。今日から俺がここにいる。ずっとお前ら親子に頼る訳にはいかねえからな」
「でも・・・」
さっきまでとは打って変わって強い口調。
お前がどんなにこいつが心配なのか、分かってる。どんなにここにいたいか、分かってる。
でも心配なのはお前だけじゃないし、心配されてるのは律だけじゃない。
お前だってまだ子供なんだから。
あんなに優しい親御さんがいるんだから。
少しでも、安心させてやれ。
「昼間は学校に行けと言いたいところだが俺もそんなに鬼じゃない。昼間ならいくらでも来ればいいから。夜はちゃんと家に帰れ」
「でも先生っ」
「帰るんだ。・・・お前がここで倒れでもしたら俺はそれこそ律に会わす顔がない。・・・な?」
最初のコメントを投稿しよう!