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「・・・分かり・・・ました・・・」
少しでも、そばにいてやれ。
「分かればよし」
心から、笑う何てことはできなくても。
自分より小さいくせして何でもしょい込む大事な生徒を安心させるためなら笑ってやろう。
何度でも。
「・・・なぁ、南」
安心させたい。
そんなことを考えてておきながらこんなことを言うのはバカげてる。やってることと言ってることが正反対すぎて。
自分自身に嫌気がさした。
「はい?」
「こんなこと・・・ごめん。今聞くべきことじゃないのは分かってるんだ。それでも今聞いておきたいことがある・・・」
こんなこと、お前に聞くなんて俺は最低だと思う。教師失格と言われてもいい。
だけどお前にしか分からないんだ。
だからって今聞くのは違うと思う。
それでも。
・・・それでも。
彼女の眠るベッド脇、二つ並んだその椅子の南が座るその隣に腰掛けた。
「・・・聞いても、いいだろうか・・・」
「・・・どうぞ」
憔悴しきったその顔で、彼は力なく笑った。
俺が何を聞こうとしてるのか、きっとお前は分かったのだろう。
それでも笑ってどうぞと言った。
本当にお前は、優しい奴だ。
ごめん。
ごめんな。
俺達はそこから場所を変えた。
きっかけは南が歩き出したこと。
何を言った訳でもなかった。ここから離れようと、話した訳でもなかった。けれど俺は黙ってそれに従った。
それは南の気持ちが嫌ってほどに伝わったから。
こんな話を彼女の目の前でできるはずがなかった。
南が足を止めたのは病室を出て、病院の正面玄関から歩いて数分、院内の静かなオープンスペース。草花が咲き誇り、色とりどりのこの場所が春はまだ終わってないよと物語る。
目の前にはお年寄りの車イスを看護師さんに押されながらなにやら孫の話でもりあがる患者さんや、点滴を押しながらゆっくり歩く比較的若い男の人とそれに連れ添う女の人。恐らく恋人同士の二人や、走り回ってはいるもののどうしても病っ気が見え隠れしてる幼い子供もいる。
そんな風景を一通り眺め終えた頃、ふいに彼が口を開いた。
「・・・もう、桜は散っちゃっいましたね・・・」
「・・・うん」
南は続きを待ってた。
俺の聞きたいことを、聞きたくない半面、聞きたがった。
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