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教室にこさせるだけでもそこそこに苦戦したんだ。
それも俺だけじゃなく、あの学校の教師全員が手を焼いていたと言う。
彼女が他人の言葉をはいはいと聞くような子じゃないのは、身を持って実感していたことだった。
「それから、俺がそう思うのは・・・あいつが、律だから。俺がずっと側で見てきた、律だから。だから、分かるんだ。だけど彼女らが律に何を言ったかは知らないけれど、その言葉が・・・律のとった行動の引き金になったのは事実だろうと思う。・・・律は、きっといつからかどこかで、ずっと一人で抱えてたんじゃないかな・・・。"そう"したい思いを、それでもぎりぎりのところで思い止まっていたんじゃ・・・ない・・・かな・・・。きっと、戦って戦って・・・その心の闇は思ったより深く、思っていたより暗くって・・・"そう"することは・・・そんな暗闇では唯一の光だったのかもしれない・・・最後の、希望だったのかもしれない・・・」
「・・・そ・・・ん、な・・・」
「分かんないよ。それが本当かどうかは。これはあくまで俺の考え。・・・律を・・・動かない律を見ながら考えてた、俺の持論だから。信じろとは言わない。だけど先生が聞いた質問に俺が与えられる答えは、これだけだから・・・」
話が全て終わるまで。それから終っても。
俺達は顔を会わせることはなかった。
お互いにどこか遠くを見据えて今にも泣きそうな自分を見ないふりした。
・・・見ない、ふりした。
「・・・ありがと。・・・ありがとな・・・」
「俺、今日は帰るから。先生、律のこと、頼んだよ」
「・・・うん」
気の聞いた言葉なんて、見つからなかった。
笑ってやれば良かった?
それも、違う気がして。
結局俺は、こんなガキ一人さえ支えてやれないだめな大人だった。
生徒が大事だ。
教師としてそれは当たり前だと思ってた。
けれど俺は始めて、生徒を憎いと思った。
それが本当なら、律に、こんな想いさせたそいつらが憎いと思った。
俺は思い知らされる。
教師である前に人間で、大人で。
そのどれをとってみても、突き付けられるのはどうしようもなく未熟であるということ。
俺は一体何でなら、まともでいられるのだろうか・・・。
なぁ、律。お願いだから、目を覚まして。
・・・お願いだから・・・。
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